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最高裁判所第三小法廷 昭和43年(オ)656号 判決 1968年12月17日

上告人

竹本務

代理人

近藤新

被上告人

江本辰雄

代理人

清源敏孝

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人近藤新の上告理由一、1および3について。

本件の被害者公洋の学歴等原審の認定した諸般の事情に徴し、かつ被害者の得べかりし利益を算定するにあたり控除すべき被害者の生活費とは、被害者自身が将来収入を得るに必要な再生産の費用を意味するものであつて、家族のそれを含むものではないことに鑑みれば、被害者公洋の得べかりし利益を算定するにあたり控除すべき同人の生活費が、その全稼働期間を通じ、収入の五割を越えないとする原審の判断は不当とはいえない。したがつて、論旨は採用できない。

同一、2について。

原審の確定するところによれば、被害者公洋は本件事故当時郷里を離れ、名古屋市の大学に在学中であつたというのであり、その父親である被上告人夫婦は大分県下で醤油、茶の小売販売を営む傍ら農業に従事していたというのであるから、同人が大学卒業後特に郷里に戻ることを認めるに足りる特段の事情のない本件においては、同人の将来得べかりし収入を算定するにあたつて、特に大分県下の平均収入を基礎とする必要はなく、労働大臣官房統計調査部編さんの「昭和四一年賃金構造基本統計調査報告」による新制大学卒業者の給与の統計によつて、その収入を算定した原審の判断に所論の違法はない。また、右収入が勤続年数によつて異なるのも右統計の示すところであるから、原審が右公洋の将来得べかりし収入を算定するにあたり、各年令層別の給与額を基礎としたことは相当である。なお、公洋の大学卒業年度の収入の計算については、被上告人の本訴請求が原審の認定する得べりし利益の総額に比して少ない一部請求であることに鑑み、所論の点がなんら原審の結論に影響をおよぼさないことは計数上明らかであるから、この点についての所論は採用に値しない。

以上、原判決に所論の違法はなく、論旨はすべて採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条にしたがい、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)

上告代理人近藤新の上告理由

一、原判決は理由を附さないかまたは理由に齟齬ある不当なものであり破棄を免れないものである。

1 原判決は被上告人の計算した得べかりし利益の算出を肯認したため被上告人の昭和四三年一月一六日附準備書面記載の「生活費は全稼働期間の平均は収入の五割を越えないことは顕著な事実であるので被害者の収入の五割として計算することとする」との間違つた主張を肯認したが昭和四一年版「経済白書経済企画庁編中の第十一―十三表家計バランスの推維に明白な通り生活費が収入の五割を越えないなどという被上告人の主張は全く虚構のことである。

収入から生活費を控除したらほとんど余剰がないということの方が顕著な事実である。

生活費を収入の五割として計算した被上告人のうべかりし収入の計算は間違いでありこれを肯認した原判決は理由に齟齬ある不当なもので破棄さるべきである。

2 収入は勤務地、勤務先の企業の規模等により甚しい差異があるものであり公洋の得べかりし収入の算出は公洋が一人息子であるから一番実現可能な大分県下の平均収入によりなすべきであり、被上告人の計算は次のとおり昇給額の不当な収入によりなしており本件公洋のうべかりし収入の計算には適しないものであり被上告人の不当な計算を肯認した原判決は理由に齟齬ある不当なものである。

<中略>

なお大学卒業の年二二才の年の計算を十二カ月として被上告人が計算しているが間違つている、大学卒業後四月一日からの稼働として九カ月分の計算をすべきである。

原判決は「さらに前示公洋の得べかりし純利益を算出するに当り全稼働期間を通じ収入の五割を生活費として控除したことは仮りに同人が将来妻帯し子女をもうけることを考慮してもなお妥当というべく」と不当な認定をしているが収入の五割が生活費であるとの証拠はどこにもないものであり原判決は理由を附さない不当なものである。

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